「スマホをポケットに入れているだけで学習効果が著しく下がる」「1日2時間を超えるスマホ使用は、うつのリスクを高める」ー。脳科学に関する世界中の研究結果をもとに、スマホなどデジタルメディアの悪影響を告発する「スマホ脳」(アンデシュ・ハンセン著、久山葉子訳、新潮新書)が話題だ。本書によると、スマホは依存性が高く、脳内のシステムを支配してしまうこともあるという。著者でスウェーデンの精神科医であるハンセン氏に聞いた。

あると集中力低下

―本書は膨大な数の研究結果を引用し、デジタル化する社会に警鐘を鳴らしています。なぜ執筆しようと思ったのですか。

◆精神科医として病院に勤務していますが、近年、不眠を訴える若い患者が非常に増えたことがきっかけです。話を聞いてみると、スマホをベッドまで持ち込んでいる人が多いことに気付きました。目覚まし時計で起きるようにとアドバイスすると多くのケースは改善しました。

現代人は平均して1日2600回以上もスマホを触り、コロナ過においては外界とのライフラインになっています。人類史上最も大きな変化でしょう。便利になったはずなのに不調になる人がいるという矛盾を、科学によって解き明かしたいと考えたのです。そこで世界中の論文を何百本も読みました。驚いたのは、人間がいかに集中力を乱すものに対して弱いかということです。特に大学生を対象にした調査で、スマホを教室の外に置いた学生の方が、サイレントモードにしてポケットにしまった学生よりも記憶力などが高かったという結果には衝撃を受けました。

毎日新聞/2021/01/15/日付より