人生100年 職は変えるもの
坂本龍馬(享年31)やモーツァルト(同35)のように、40年も生きずに歴史を変えた偉人や名作を残した芸術家は数知れない。一昔前まで人生50年、太く、短い生き方も多かったろう。だが今や人生80年、そして君たちには100年近い時間がある。
僕(41)が生まれた頃、男子の平均寿命は70余年。大学を出て定年まで一つの会社に勤め上げ、あとは悠々自適でちょうどよかった。「人生100年時代」にはレールに乗っているだけではゴールにたどり着けないな。30~40年にもなる〝余生〟を、現役時代の蓄えと先細りの年金では賄えない。退屈もしてしまいそうだ。さてどうするか?
答えを探しに、2008年の開業以来、定年制がないライフネット生命(東京・千代田区)を訪ねた。
IT企業かと思うようなオフィスだが、よく見ると顔ぶれが若く、ない。60歳を超えた社員から20代の若手まで入り混じっている。148人いる社員の9割が中途採用で、役員でない60代が10人もいる。しかも、週5日フルタイムで働かなくてもいいらしい。育児や介護などの家庭事情だけが理由でなく、週3日だけ出勤し、個人事業との兼務もOK。中には〝社長〟兼務の人も。こうした「パラレルキャリア」社員が指南役となる部活動まである。
「人生100年時代のキャリアを一つの会社が用意するのは難しい。会社が社員を食べさせるのではなく、一人でも稼ぐ力のある人が集まった会社が理想」と人事総務部長の岩田佑介さんは強調する。
いくつになっても稼ぐ力を持つー。そのために「人生三毛作」を提唱するのが東大の柳川範之教授(経済学)だ。その実現の切り札が「40歳定年制」という。アラフォーの心はざわついたが、雇用契約を20年程度に区切ってキャリアを見直し、40歳や60歳の〝定年〟で必要に応じたスキルアップを図ろうという趣旨らしい。「激変の時代、長く働くには『学び直し』のプロセスが欠かせない。中期雇用がベースになれば転職市場も厚くなり、需要に応じた人材の流動性も高まる」
ずいぶん思い切った提案だが、学ぶのに遅すぎることはない。60~70代が集うコンピュータープログラミングの勉強会があると聞き、若者の街、東京・渋谷へ足を運んだ。
日本経済新聞/2018/12/13/日付/ポスト平成の未来学/より