最近よく、コロナ過で心はどう変わったかと聞かれる。だけど、歯切れよく答えることができない。というのも、心を語ろうとすると、どうしてもケース・バイ・ケースになってしまうからだ。

ステイホーム。社会を停止させるから、家にいてくれ。私たちはそう言われた。24時間一緒にいる生活で、緊張と不満が高まり、互いが敵に見えた。その結果、痛ましい暴力が生じた。コロナDVのことだ。

一方で、心が再生した家もある。ありあまる時間の中で数年ぶりにトランプをしたのだ。ババ抜きは思いがけず楽しかった。すると、じっくり話ができるようになった。そのと時間が、よくわからなくなりかけていた互いのことを、再び結び付けた。

同じコロナ過が異なる体験になる。ケース・バイ・ケースなのだ。だから、どの心を語れば時代を語ったことになるのかわからない。心理士は時代を語るのに向いていない。

朝日新聞/2020/06/18/日付より